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未来工業取締役相談役 山田 昭男(やまだ あきお) さん
1931年、中国・上海に生まれる。48年、旧制大垣中(現・大垣北高)を卒業し、父が経営する電線メーカーに就職したものの、演劇に熱中し退社。65年、未来工業を設立、社長となる。2000年に相談役に退き、昨年、持ち株会社・未来の相談役にも。73歳。 |
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「経営コンサルタントは、売れないものはやめろと言いますが、私は売れないものを作れと言う」

――最近出した著書「楽して儲(もう)ける!」が話題を呼んでいます。確かに、社員に残業はさせず、年間百四十日の休日数は企業では日本一でしょう。
「朝七時に会社に出かけ、夜七時に帰宅すれば、十二時間を会社に拘束されているようなもの。八時間寝ると、自由時間はわずか四時間。残業なんかやったら、その時間まで吹っ飛ぶ。それくらい、人間として生きるために、心を豊かにするために使いなさいということです。休日もたっぷりです。ゴールデンウイークの連休は十一日、夏休みは十日間、正月休みは二十日間。祝日を出勤にしての振り替えではないし、火曜や木曜が祝日なら、月曜、金曜を休みにして、四連休にしています」
――そこで素朴な疑問です。そんなに楽をしながら、収益力を示す売上高に対する経常利益率が平均の倍以上、10%台を維持できるのはなぜですか。
「最近は少し低下しましたが、一九九七年には経常利益率は20%以上ありました。だからといって、スイッチボックスや電線管など我が社の製品に、世界初や超がつくものはありません。法律で寸法も原料も決まっていて、メーカーもごまんとある。そのトップが世界ブランドの松下電工。それなのに、こっちは生意気にも休んでばかりだから、お客さんは腹を立てる。休みが多いと生産が注文に追いつかない。やはりお客さんに逃げられる。これでは会社がやばい(危ない)と、社員は不安になる」
――すると社員はどうしますか。
「勤務時間内で、能率や生産性を上げ、競争力を確保しようと必死になります。世界的にも高学歴な日本の労働者なら、それくらいは自覚し、対策も考えるでしょう。神頼みじゃないが、社員頼みです。うちの社員なら、それぐらいのことはやってしまうはずと」
――残業が無く、休みが多い代わり、毎月の手取りが少なくなりませんか。
「社員の給料は、少なくとも地域の平均よりかなり上になるようにします。実際、残業をやっている会社よりもましのはず。友人や同級生と比べて、自分が安いと分かったら、絶対に働きません。アメばかりで、ムチのない経営は間違っているそうですが、ムチなんか使う必要はありません。アメを十分にやれば、それだけ働く気になります」
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――同じ製品でもバリエーションが多く、製品点数は約一万六千点。そのうち、量がさばけるのはわずかです。売れない製品を作り続けるのはなぜですか。
「経営コンサルタントは、売れないものはやめろと言いますが、私は売れないものを作れと言う。例えばスイッチボックス。たいていのメーカーは売れ筋の四種類だけです。うちは六十四種類も作っている。もちろん月産四百万個のうち、四種類以外は合わせても数千個で、大赤字です。しかし、スイッチボックスに関して、我が社は日本一の総合メーカーで、どんなタイプもあることが貴重なんです。ほかには無いから、ユーザーは絶対に喜んでくれます。商売は、そう思わせることが大事。売れ筋の四種類も、うちから買ってくれるようになり、市場占有率は80%になりました。一品一品では赤字でも、トータルでは黒字になる。もっとも、この戦略が社内で理解されるのに二十年かかりました」
――ムダと思われたものに意味があるわけですね。同時に、製品に工夫やアイデアがあふれていることでも有名です。
「我が社の製品は、他社も作っているものばかり。それでも他社とまったく同じものは作らない。どこかに違いをつける差別化が鉄則です。でなければ、価格競争になる。規格品でも、法律に触れない程度の工夫はできるのです。例えばスイッチボックスのネジ穴はよそのメーカーはすべて二つだから、うちは四つにした。それだけで、柱に留めやすくなり、売れました。すぐ、まねされるが、次は付属のネジを通常より五ミリ長くした。その違いがお客さまには喜ばれる」
――職場の照明をこまめに消すなどの節約に励む一方、巨費をかけて、ボリショイバレエや京劇を招くメセナ活動を積極的に展開しています。その理由はなんですか。
「文化は支援がないと成り立たない代物です。江戸時代は大名、その後は金持ちが支援してきましたが、税制によって、金持ちがいなくなった。残るのは企業だけです。日本人の心を豊かにするためにも、企業はできる範囲で支援をすべきです。同時に、それによって、未来工業はすごい会社だと言われれば、社員はうれしくなり、やる気を起こすでしょう。小さな節約、大きな浪費には、そんな狙いもあります」
写真(上)=未来工業取締役相談役 山田 昭男 さん
写真(下)=演劇への情熱を失わず、役員室の壁は、全国の「本日公演中」のチラシで覆われる
未来工業--------------------------------
本社・岐阜県輪之内町。中堅の電設資材メーカー。1965年、山田さんたち劇団「未来座」のメンバーで創業。生産拠点は国内に6か所あり、韓国、台湾にも関連会社。創業10周年の75年、山本安英の「夕鶴」上演に市民を招待し、メセナ活動を始める。グループ会社再編で昨年、持ち株会社・未来の子会社となった。2004年3月期の売上高は231億円。従業員は約790人。
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ローテクの“後端企業”
山田さんの言う「小さな節約、大きな浪費」の浪費の一例に、五年に一度、社員全員で行く海外旅行がある。もちろん費用は会社持ちだ。
しかし、会社が一週間以上、休みになるから、営業担当者は喜んでばかりではなかったらしい。「またお客さんに迷惑がかからないか」と気をもんだ。
殊勝な心がけと、山田さんはほめない。だれかが泣いて、留守番をするといった常識的な解決策も認めない。なんと、倉庫の合鍵を三千個つくり、全取引業者に渡させた。必要になったら、製品を勝手に持っていってくれというのである。
未来工業はハイテクの先端企業ならぬ「ローテクの後端企業」である。その生き残りは、製品の差別化にあると、明確な戦略を定めてきた。
そのことは同時に、企業としても、経営者としても、ユニークな道を歩ませることになったようだ。
経済部 千田 龍彦 |
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(
2004年6月9日
読売新聞)
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